朝10時の予定だった出発は、全員が集まっていないので遅れることになった。マンゴーとコーヒーをしながら出発を待つ。待っている間に、マンゴーを買ってくれた彼は、モバイルレジェンドというゲームをしていた。なぜだか分からないが、インドネシアとフィリピンで特に人気がある。ゲームのアカウントを売って小遣い稼ぎをしていると言っていたので、ゲーマーである。
全員が集まり、スラバヤからトゥバンへ。車内は4名。僕は助手席に座っていた。途中、高速道路のような道に入ったところで、似たような景色が続いたので、若干眠気が来た。昨日はよく眠れたか聞かれてしまう。寝て良いと言われた。3、4時間も運転してもらうので、気の利いた話を僕からすべきだが、英語がなかなか出てこないので、喉がつまった。
高速を降りたあたりで、見慣れない景色が広がったので、あれは何かといくつか質問してみた。
インドネシアの選挙ポスター


道中には、たくさんのポスターが貼ってあった。一枚二枚ではない。何キロにも渡って、道路脇に似たようなポスターが掲示されている。聞いてみると、11月27日に行われる選挙のためのポスターだった。選挙ポスターには必ず二人写っているのだが、一人はチェアマンだと言っていたから、党首と候補者が写っているものと思われる1。投票は、自分のIDカードに登録されている住所でしかできないらしく、直接投票しに行かなければならないらしい。故郷に帰るのが大変だから今回は投票に参加できないと、運転をしながら答えた。
モスクの色の違い



それから、モスクがたくさん目についたので、モスクのデザインの違いに意味があるのか聞いてみた。色による違いがあるようだった。インドネシアの中のイスラム教には、いくつかの宗派があると昨日聞いていたが、建物の色でどの宗派かだいたい分かるらしい。例外もあるので、必ず色で決まっているわけではないとも言っていた。
グリーンのモスクはNU2という宗派のことが多い。インドネシアに元からあるアニミズム的な要素3がミックスされているそうで、自然と一体になるイメージがあるからか、緑が採用されている。青のモスクはムハマディア4という宗派で、厳格なイスラム教のようだ。他にも金はアラビア系のイスラム教とのこと。上の写真では大きい球が屋根に乗っているが、小さい球が乗っているモスクもある。それから、中国から来たイスラム教では、ドラゴンがモスクのデザインに採用されていたりもするそうだ。
また、上記の選挙ポスターも色で分かれている。モスクの色と対応していて、緑のポスターはNU系、青はムハマディア系の候補者のポスターになっていると言っていた。見る限りでは、全ての候補者が色で分けられており、何等かの宗教団体と関係しているようだ。
イスラム教への関心
何かに近づくという視点が僕の制作にはあるのだが、この地で制作する場合、やはりイスラム教について知ることが、最優先な気がしてきた。昨日からずっとイスラム教のことをスタッフ達に聞いている気がする。インドネシアの人口の80%以上の人がイスラム教徒らしいし、巨大なモスクもあちこちにある。コンビニエンスストアよりモスクのほうが多いのではないかと思うほどだ。そう言うと、お隣のバリ島はヒンドゥー教が多数派なので、モスクを探すのは難しいと言っていた。言葉、宗教、歴史、まだ何も知らない僕が、インドネシアに近づくのは一筋縄ではない。

そして、車の前を走っているトラックの泥除けに「IMPOSSIBLE IS JUST AN OPINION」(不可能とはただの意見に過ぎない)と赤字で書かれていた。確かに、不可能と言わなければ、不可能は無いかもしれない。だが、安全運転はしてくれ。
- この選挙は、統一地方首長選挙を決めるための選挙ポスターだったため、実際には、党首ではなく、知事と副知事のセットだったと思われる。インドネシアの首長選挙では、知事と副知事はセットで立候補する必要があるそうだ。
参考:インドネシアの選挙の仕組み ↩︎ - ナフダトゥル・ウラマー(Nahdlatul Ulama、略称NU)は、PKBという政党も持っており、過去には大統領も排出している。人権や民主主義を促進するため、多数のNGOをつくり市民社会の礎にもなったとされる。インドネシア最大規模の動員力を持つイスラーム団体。
参考:Wikipedia(ナフダトゥル・ウラマー) ↩︎ - カピタヤン(Kapitayan) という旧石器時代からジャワ島にあったと考えらる自然信仰。目に見えない自然などを信仰の対象としている点で、日本のアニミズムに近いものだと考えていたが、一神教という点で違うとされる。ジャワ島は古くは多神教のヒンドゥ教や仏教も信仰されてきた歴史があるため、複雑にミックスされてきたのではないか。
参考:Wikipedi(Kapitayan) ↩︎ - ムハマディヤ(Muhammadiyah)は、イスラムの復興に焦点を当てており、本来のイスラム教に戻るべきだと考えている組織。また、NUと同じく政党を持っている。インドネシアのイスラム教は、土着信仰と宗教が結びついているため、そのことを指して、本来のイスラム教に戻るべきだと言っていると思われる。
参考:Wikipedia(ムハマディア) ↩︎