「午前2時。体力限界の状態で寝る。」
こう書いて、この記事を終えていたから、続きを書いてみる。それから、タイトルに誤字があるが、そのままにしておく。朝も7時頃から活動していたし、この日は午後からも盛りだくさんで、とても疲れた。体力の限界が伝わるよう、午後から起きたことを同じ投稿内で書いてみようと思うので長くなる。
インドネシアの人たちは、よく集まるし、よく喋る。元気すぎるのだ。僕はここ数年、あまり人と会わない生活をしているので、こちらに来てからは毎日パーティをしているような感覚さえある。礼拝の時間に1時間くらいそれぞれの家に帰ったりすることはあったが、この日は12時くらいから朝の2時くらいまで、何度も繰り返し集まっていて、ずっと何やら話していた。
カフェで集まるのが日課
昼12時前。インポーから「コーヒータイム?」と連絡。海辺のカフェへ。カフェの外には屋根が付いていて涼むことができる場所があり、そこにカフェのオープンとともに集まるのが彼らの日課だ。Prewanganのメンバーが暇だから、毎日このカフェに集まっているというわけではない。全員が来るわけではないし、メンバーはそれぞれ仕事もしていると聞いた。みんな時間をつくって集まっているのだろう。メンバー以外の村の人達も、このカフェにはたくさん集まってくる。しかし、数時間はカフェの前でお喋りをして過ごしているように見えるので、ここに来る人達が何をして働いているのかまだよく分からない。



カフェでは、みんなインドネシア語やジャワ語で話しているので、何が起こっているのか分からない場合が多いのだが、インポーが時々通訳をしてくれる。話していたのは、11月23日に行われる伝統的なお祭りについてらしい。それで、祭りのためのミーティングがカフェの前で始まったようだった。Prewanganのメンバー以外もたくさん集まっている。僕は、ほとんど何を話しているか分からなかったが、とても楽しく聞いた。みんなよく笑うし、よく喋るから見ていて楽しいからだ。インドネシアの人達は、輪になって地面に座り、よく喋るという話は前から聞いたことがあったが、その中に自分が入っているのは不思議な感じがして嬉しかった。みんなが話している時、今度のお祭りは、インドネシア政府から助成金が出る。伝統文化には保護のためのお金が出るけど、コンテンポラリーアートには出ないとインポーが言った。

コーヒーとタバコはコミュニケーションが生まれる場所
インドネシアの人たちはよくタバコを吸う。今日の集まりでも全員が輪になって吸っていた。僕は禁煙して1年以上経過しているし、吸いたいとも思わなくなっていたため、ここ数日の間に何度かタバコを断っていたが、みんな吸っているし、このカフェには手巻きタバコも売られていたから、つい手を出してしまった。
12歳くらいの子ども達とも、このカフェで出会うことがあるが、みんなタバコを吸っている。大人達はそれを見ても止めようとはしない。インドネシアでは何歳からタバコを吸って良いのか聞いてみたが、たぶん21歳くらいからだと思うと言っていた1。正確なことは知らないようだった。インドネシアは世界的なタバコの産地でもあり、とても安い。インポーは、インドネシアのタバコが世界一だと言っていた。ちなみに、コーヒーも産地でよく飲まれる。最初のうちは違いが良く分かっていなかったが、ジャワコーヒーは飲み方が独特だ。インスタントコーヒーくらいまで細かく挽いた豆をカップにそのまま入れ、フィルターを使わずにお湯を注ぐ。豆がそのまま入っているため、しばらく置いておき、豆が沈んできたところを上澄みだけ飲む。最初は知らずに飲んでいたので、コーヒー豆もじゃんじゃん口の中に入っていた。エスプレッソのように濃ゆいコーヒーなので、砂糖を多めに入れて飲むのが普通のようだ。僕はブラックコーヒーが好きなので、砂糖抜きで注文している。
コーヒー屋のお姉さんが、注文するときに毎回笑顔で注文に関する言葉を教えてくれる。僕も同じように発声すると、笑ってくれる。サヤ マウ コピ(わたしはコーヒーが欲しい)コピ ラキ(コーヒーもう一杯)という言葉を覚えた。
ソボントロ村の社会見学(干物工場)
カフェで出会った二人が、魚の干物を生産している会社を経営している人だったため、コーヒータイムの後(と言ってもコーヒーがメインではなく、約3時間話した後)、魚の会社を見学させてもらえることになった。見学した会社では、インドネシア国内向けに干物を生産しているようだったが、以前は日本にちりめんじゃこを輸出していたと言っていた。魚を洗う水槽、洗ったあとに茹でる水槽がいくつか設置してある。仕事をしている人達は、天日干しされて乾燥した小魚のサイズや種類を選別し、段ボール箱に詰める作業をしていた。会社の敷地一面には、天日干し用の網戸のような木枠が敷き詰められている。この木枠が並べられている風景は、この村のあちこちで見られる。いくつかの会社があるようだが、各会社ごとに違う魚を干物にし出荷しているようだ。
ソボントロ村の社会見学(祭りで使うタタカンマスク)
干物の会社を見学した後、バイクに乗せられ移動。どこに向かっているのか分かっていなかったが、大きな門がある家の前で停車した。さっきのコーヒータイムで出会った警察官をしていると言っていた人が、家から出てきて迎え入れてくれた。僕はカフェでみんなが何を話しているか知らなかったので、到着して知ることになったが、彼は今度の祭りで使うタタカン2というマスクを制作している人でもあり、それで見学することになっていたようだった。
家の裏庭が工房になっていて、たくさんの木材や工具が置かれている。奥の方から木箱に入れて保管していたマスクを持ってきてくれた。今度の祭りで実際に使うものだそうだ。マスクの表面には塗装が施されているし、目の中にLEDライトが仕込んであり光るものまであった。マスクに取り付けられている角は、本物の山羊の角が使われている。随分、本格的な技術をお持ちのようだ。本当に警察官なのか疑いたくなるほど、本格的な工房だし、マスクをつくることを仕事だと言っていたので混乱した。警官は別の仕事もしていいのか聞くと、問題ないと言う。
大きいマスクは3人で動かすと言っていたので、たぶん獅子舞のようなものだろうと予想した。口と頭の所が分かれていて獅子舞と同じような構造になっているものもある。切り株をノミで削って彫り出しているので、どのマスクも結構ずっしりと重たい。そして、どのマスクも随分怖い顔をしている。





制作途中のマスクも見せてくれた。まっ赤に塗られているし、口もむき出しになっていて、すでに仕上がっているものと比べても一際怖い顔をしていた。このマスクに山羊の角を付けると言って、角を何本も持ってきて見せてくれた。そして、制作中のこのマスクについて話してくれた。
ソボントロ村の社会見学(ポチョンというお化け)
インドネシアではとても有名なホラーキャラクターの1つにポチョンという幽霊がいる。彼が制作中のマスクは、そのポチョンらしい。彼は本物のポチョンを見たことがあるらしく、その時に見たポチョンをモチーフにしていると言った。その場でポチョンについていくつか質問してみたが、おそらくゾンビとお化けを合わせたような存在だろうと想像した。土葬された人間が地面から出てきて、空中を浮いて動き回るそうだ。ポチョンの詳しいこと3はこの時は分からなかったのだが、多くの人々がポチョンを信じていると言っていた。数年前には、実際にポチョンを見たという人が村の中で何人も現れ、一大事件にまでなったらしい。聞いているときは信じられなかったし、何を言っているのか分からない部分もあったのだが、調べてみると、いくつかニュース記事4も出てきたので本当のことだったようだ。この話を聞いていて興味深かったのは、偽物のポチョンと本物のポチョンがいるということだった。偽物のポチョンは人々を脅かして、慌てているすきに金品を盗んだりしていたそうだ。いくつか見つけたニュースでは、ポチョンに出くわした人が気絶したと書かれているため、そのような隙に盗みを働いていたのかもしれない。また、本物と偽物との区別について教えてくれた。本物は幽霊なので浮いているが、偽物は人間だから浮いていないらしい。そして、この怖いマスクを制作中の彼は、本物のポチョンを見たと言っている。
ソボントロ村の社会見学(パペットマスターの家訪問)



夜になり、みんなそれぞれの家に帰った。僕は、夜ご飯やライターをどこかで買えないかと考えて、商店を探して歩いてみた。少し歩いた所に、小さな商店があったので、翻訳アプリを使ってコミュニケーションしてみたが、ライターは置いてない店だったようだ。全く言葉が分からないので、少しの距離を歩くだけで大冒険をしている気持ちになる。また、別の店を探し歩く。すると、たくさんの伝統的な楽器が置かれている家があったので、近づいて中を覗いてみた。何枚か写真も撮る。そうすると、知った顔が中から出てきた。ここは、いつもカフェで出会う人の家だったようだ。彼は伝統的な人形を操ることが上手な人らしく、パペットマスターだと紹介されていた。彼は英語が全く喋れないので、僕の存在に少し慌てた様子だったが、目が合うと手招きして中に入れてくれた。それから、ジェスチャーで食事に誘ってくれているようだ。部屋の中には、いくつもの楽器や、影絵のための人形が置かれていた。壁には、彼のことを紹介していると思われる新聞記事等が貼ってある。しばらく部屋の中を見学していると、彼は誰かに電話をしていたので、たぶんインポーを呼んでいるのだろうと思った。インポーは英語が喋れるし、みんなインポーが僕を世話をしている人だと考えているのかもしれない。電話を終えた後、パペットマスターがジェスチャーで何か僕に言って、一人でバイクに乗って出かけてしまった。ちょうどモスクから歌が聞こえていたから礼拝に行くのだろうと思い、しばらく待っても帰ってこないから滞在先のスタジオに戻ることにした。しばらくすると、スタジオに彼が迎えにきた。どうやら、ご飯をどこからか買ってきてくれていたようだった。バイクの後ろに乗せてもらい、再び彼の家を訪問して、一緒にご飯を食べた。


ご飯を食べていると、インポーが来た。やはりさっきの電話はインポーを呼び出していたようだ。パペットマスターは僕の存在に困ったから、インポーを呼んだんじゃないか?申し訳ない。などと言ったような気がする。すると、パペットマスターとインポーとは親戚だから、ここにはよく来るんだと言った。しばらく食事をとっていると、次々に知った顔が集まってきたので、今度はカフェではなくて、ここに集まるのかなと思っていたら、子どもたちまで集まってきていつもと様子が違う。23日に行われる祭りの話し合いがまだ続くのかもしれない。
隣に何人かの男の子たちが来て、スマホの翻訳機能を使って、コミュニケーションを試してきた。それで、しばらく会話。英語で、「好きな食べ物は何ですか?」「インドネシアにはいつまでいますか?」などの質問を受ける。さらに、「ソーセージは好きですか?」「もしソーセージを持ってきたら買ってくれますか?」と商売気溢れる質問をされたかと思ったら、その後に「足のサイズは何ですか?」と来たので、これはいったいどういう質問なんだと思い笑った。それから、「バレーボールは好きですか?」「明日一緒にバレーボールをしませんか?」と質問がされたので、明日の16時から一緒にバレーボールをすることになった。
大人達は、話し合いを続けていた。しばらく終わらない雰囲気のようだ。僕は、蚊取り線香や酒が欲しいとインポーに伝えていたから、そこを訪れていた若者達に変わりに僕を店まで連れて行ってくれるよう頼んでくれた。

バイクの後ろに乗り、15分くらい乗っていただろうか。ビール等のお酒は購入できる場所が限られているようて、けっこう遠いところまで連れて来てくれた。薄暗い商店の中に入ると、若者が小声でビールを注文してくれた。店内には商品がたくさんあるのだが、ビールは店頭に置かれていない。注文を受けた後、店主が店の奥へ入っていき、奥の方からビール瓶をいくつか持ってきた。注文しないと出てこない仕組みのようだ。イスラム教徒ばかり住んでいる地域なので、ちょっとしたワルイ店なのだろう。酒が自由に買えなさそうなので、少し多めに瓶ビール4本と、赤ワインを1本を買った。インポーも彼らにお金を渡して3本ビールを頼んでいたようだ。たくさんの瓶を抱えてバイクで運ぶ。
パペットマスターの家に戻ると、祭りのためのガムランや太鼓の練習をしていた。しばらく演奏を見学し、酒瓶を持ってスタジオに戻った。
スタジオに戻るとインポーがPhotoshopで祭りのためのロゴをデザインしていた。そして、ビールを1本開けて2人で飲む。かなり長い間喋っていたような気がする。しばらくすると、タタカンのマスクを制作している警察官も来て、話が始まった。最後のほうは、酔っていないのにあまり記憶がない。
2時頃解散。
就寝。
- インドネシアは世界第3位の喫煙大国のようだ。18歳以上から喫煙が認められているが、若年層(13歳から18歳)の喫煙率が4割近くある。https://www.indonesiasoken.com/news/projected-number-of-future-smokers-in-indonesia-a-tobacco-big-country-and-future-prospects/ ↩︎
- タタカン(Thak-Thakan)は、獅子舞のような踊りをする東ジャワのタンバクボヨ地区で始まった伝統的ダンスパフォーマンス。獅子だけでなく、犬や女などの仮面もある。伝統的な祭りだと聞いたが、実際にはインドネシアの独立記念日を祝うために始まったものなので、1945年以降に始まった比較的新しい祭りだと言える。毎年8月17日(独立記念日)に行列をつくることから始まった祭りのようだが、これは、キラブ(kirab)という行列をつくる宗教的行事の形式を元にしていると考えられている。今回の祭りは11月に行われるだけでなく、以下の記事ではマスクの種類も増えてきているという記述もあるため、形を変えながら継続されているようだ。伝統をつくろうとしている祭りだと言えるのかもしれない。
https://unair.ac.id/komodifikasi-seni-pertunjukan-thak-thakan-gembong-singo-lawe-di-jawa-timur/
https://pontecorbolipress.com/journals/index.php/ija/article/view/230
↩︎ - ポチョン(pocong)はインドネシアやマレーシアで語られてきた幽霊。イスラム教の埋葬習慣に影響を受けている幽霊だが、イスラム教でポチョンの存在が認められているわけではない。イスラム教がインドネシアで広まる前からあるアニミズム的な宗教観と結びついて生まれていると考えられる。イスラム教の埋葬方法では、死者を白装束のようなもので全身覆い土葬する。この死者が、仏教的に言えば成仏できなかった時に、ポチョンになるというのが基本的な物語で、ゾンビのような形態だと考えられる。だが、様々な大衆文化と混ざり複数のバージョンのポチョンがあるようだ。https://en.wikipedia.org/wiki/Pocong ↩︎
- トゥバンにある村でポチョンが現れたために、住民たちは毎晩パトロールをしていたが、ポチョンに出くわしたお婆さん二人がポチョンと対面してしまい、気絶したという、2008年のニュース。https://news.detik.com/berita-jawa-timur/d-963525/pocong-kembali-teror-warga-tuban-dua-nenek-pingsan ↩︎