インドネシアの家庭料理の味
13時頃インポーから連絡。ご飯を食べたか聞かれ、食べてないと言うと、家にご飯があるからと招待してくれた。バイクで迎えに来てくれて、彼の家に到着する。中庭のような場所がある大きな家だった。御家族がたくさんおり紹介された。みなさん笑顔で接してくれて、和やかなひととき。


インポーのお母さんが用意してくれた言う、魚やテンペ、スープ、ご飯などを台所で頂く。レストランで食べるものと遜色がなく、凄くおいしい。魚につけるソースなども全部自分で作っていると聞いた。スープの味付けについて聞いたら、ココナッツや何かの果物なども入れて調理するとのこと。今まで食べたインドネシア料理は全ておいしいと感じているので、作り方に興味がある。食後には、自宅の敷地内で採れるというバナナをも頂いた。日本では見ることがないタイプのバナナで、短くてずんぐりしている。形も三日月のようなカーブをしていない。サイズは10㎝くらいだろうか。緑色の状態のバナナをカットして、自宅で黄色くなるまで熟成させるようだ。少し芯が残っていてちょうど良い固さで美味しかった。食後は、中庭でご家族が涼んでいたので、僕もそこにお邪魔する。皆さんと歓談。
ソボントロ村の家族の形
インドネシアには苗字が無い人がいる。結婚したらどちらかの苗字を選ぶ必要も、子どもが親と同じ苗字を名乗る必要もない。日本でも苗字を全員が持つようになったのは明治以降らしいので、文化的な背景や家族制度に関する法律によるものだと分かる。苗字が無くても、全く不思議なことではない。しかし、このことが、日本とはずいぶん異なる家族の形や、文化をつくっていそうなことは想像がつく。
また、イスラム教の結婚についても興味があったので、今回の滞在中に尋ねる機会があったが、この地域の近親関係は随分広いということが分かった。インポーが言うには、5世代先の先祖が同じ人までが家族であり、その範囲の人とは結婚できないと言っていた1。5世代先に共通の先祖を持っているということは、8親等以内の人までは結婚を禁止されていて、9親等以上で結婚できるということになる。そんな先まで親族ということにすると、場合によっては数百人になる場合もあると思うが、そういうことらしい。そのため、結婚前には本当に結婚できるのか両親がチェックしたりすると言っていた。
また、一番下の子どもが両親と暮らすというルールがあるそうだ。なので、日本風に言えば、一番下の子が家を継ぐ。しかし、男子か女子かは重要ではない。日本は核家族が大部分になってしまったが、一番下の子は両親と住むというルールがあるため大家族しか基本的には無い。一番下の子が男でも女でも、一番下であれば、最後まで自分が育った家で両親と暮らす。そのため、一番下の子と結婚する人は、相手の実家に移り住む必要がある。また、もし、一番下の妹や弟が、兄や姉よりも先に結婚した場合、上の子達は家から出ていかなければならない。
家族の形は予めつくられているのかもしれない
苗字や婚姻、家の継がれ方など、ルールや法律の違いによって、随分違うことが分かってきた。家族の形さえ変わるのだから、ルールや法律が社会の重要な部分を、僕たちが考えている以上に規定しているのかもしれない。家族の形が変われば、コミュニティの形成のされ方も変わるし、文化も社会も変わるに決まっている。僕たちの日常生活の大部分は、思っている以上に当たり前のことではなく、自然なことだと思っている家族の形さえ、動物的に決定されているのではなく、ルールによって不自然に形作られている可能性がある。
結婚の方法が2つ用意されている
また、インドネシアには結婚の規則が2つ用意されている。1つは国の法律によるもので、1つはイスラム教等宗教上のルールによるものだ。結婚はどちらかの方法でする。ムスリムは通常、モスクへ出向き結婚をする。インドネシアでは無宗教が法律で認められていないため、必ず何かの宗教の形式に沿って結婚をする。そのため、同じ宗教の人同士でなければ結婚できないなどのルールも存在する。結婚をする方法が2つあるということは、結婚を二重に行うことができることを意味している。このルールを使って、妻を二人持つ男性がいると聞いた。別々の規則に則っているだけなので違法なことではないらしい。しかし、そういう結婚は悪い行いだと皆言っていたので、これだけ地域の結びつきが強い社会では、村八分になって生きていくのが難しくなるのかもしれない。しかし、イスラム教では一夫多妻を認めているため、インドネシアの法律も一夫多妻を認める法律に改変されている2。
完成された景色
食後の歓談をした後、インポー達家族の自宅に生えているという、マンゴーやバナナ、ぶどう、メロンなどを見せてもらった。道向かいに別宅があり、そこも彼らの家だという。鶏などもたくさんいる。畑の向こう側ではエビの養殖もしていた。それから、自宅から離れた場所にある、バナナと山羊を飼っている場所にも案内してくれた。思っていた以上に広い敷地を所有していて驚いた。自然と共に生きていることが良く分かり、完全に美しい景色に見えた。
離れの土地には、バナナが無造作に生えていて、見たことが無い景色だった。毎日、山羊に水を与えたり、バナナの葉っぱを切ったりして管理はしているそうだが、ここは基本的に持続可能性の高い場所になっている。もともとたくさんの雑草が生えていて、草刈をしょっちゅうしていたらしいのだが、雑草を刈るのではなく、山羊に食べさせることにしたそうだ。すると、山羊の糞がバナナの肥料になり、バナナがよく育つようになった。何もしなくても、この状態が基本的には維持でき、山羊は草が食い放題だし、バナナも山羊の糞等から養分をもらえる、人間は草刈の仕事が減るし、バナナを金に換えることもできる。素晴らしいシステムが出来上がっている。
しばらくインポーが作業している様子や山羊の様子、バナナの木等を観察した。バナナの木と言って良いのか分からないが、手で押すと簡単に揺れるし、地面から伸びている幹は、木と言うよりはでっかい茎のような質感だった。指で押すと全体的に柔らかい感じがある。バナナというのは随分不思議な生き物だなと思った。観察を続けていると、近くのモスクから礼拝の時間を知らせる歌も聞こえてきて、この完成されたシステムと合わさって、完全に美しい景色に見えてきた。
- インドネシアの法律やイスラム法では4親等(いとこから結婚が可能)ということらしい。日本の場合も、4親等以上なので同じだが、これは世界的にはよくあるパターンのようだ。ジャワはイスラム教が入ってくる前、ヒンドゥー教が信仰されていたが、ヒンドゥー教は8親等以上でなければ結婚できない(地域差がある)。そのため、ジャワにはこの時の名残により、ムスリムであってもイスラム法とは異なる婚姻制度を採用している地域があると考えることができる。現代アジア研究所編『ASIA 21』では、ジャワは6親等までが近親関係だと説明しているので、同じジャワでも複数のルールがある可能性がある。 ↩︎
- 原則は一夫一婦。一夫多妻は、ムスリムの女性からの反対の声も大きくなっているそうだ。https://note.com/tasty_rail9088/n/n47f66699df02 ↩︎