マグリッドタイムは滞在記録を書く時間
17時から19時位の間は、だいたい1人で過ごすことが多い。この時間帯に、一日五回の礼拝の内の二回があるということや、家族でご飯を食べる時間とも重なっているため、みんな自宅に帰っているからだ。また、この時間の礼拝はマグリッドタイムと呼ばれ、最も重視される礼拝のタイミングらしい。他の3回の礼拝時間とは違い、この時間に眠ることは、人をクレイジーにさせるという言い伝えがあるともインポーは言っていた。彼はそれを信じて守っているらしい。なので、僕にとってはこの時間が、滞在記録を書く時間になっている。
20時ころインポーが来た。彼が礼拝や夕食を終えて、僕の様子をスタジオに見に来るときには、僕はほとんど毎回パソコンに向かって文章を書いている。それで、何をしているのかと聞かれた。このレジデンスプログラムの滞在記録を毎日書いているということ、これは単なる日記のように見えるが、僕にとってはアートの一部だということなどを伝えた。それから、プライバシーのことがあるので、今までインポーの名前はこの滞在記録では伏せて書いていたが、インポーのことは毎日この文章に登場するので名前を抜きにして書くことが難しいと伝え、この記録にインポーの名前を登場させても良いか聞いた1。彼は、「もちろん使って良いよ、My name is Impoe.」と言った。名前は言わなくても知っていると言って笑った。
インスタントラーメンを大量購入
その後、バイクに乗せてもらい、インスタントラーメンを買いにインドマートへ2。コンビニエンスストアのような店だが、果物や米、生活必需品もいくつか置いてあった。店内には日清やグリコ、キューピーなどの製品もあって、日本の商品もけっこう手に入る。インポーが日本よりインドネシアのインスタントヌードルの方が美味いと言ってオススメするので、Indomieというインドネシアの麺をいくつか購入した3。パッケージからは、何味なのかさっぱり分からないので適当に選んだが、インポーがおススメしてくれたものも1つ購入した。


それから、こないだ買った酒はあっという間に無くなってしまったので、ワインとビールも買いに連れて行ってもらった。ビール4本と赤ワイン1本を購入。内訳は分からないが、2200円くらいで購入できた。お酒の金額は日本で買うのとそんなに変わらない印象。
インポーの料理、そしてキッチンの使い方を知る
スタジオに戻ると、昨日、もらっていた煮干しを調理するために、インポーが、小さなナイフと小さなまな板でニンニクなどを切り始めた。


ガスコンロは普段使われてない様子で汚れており、ネズミの糞などが大量に落ちているものだから、どう使って良いのか全く分からなかったが、適当な布で糞を落とし、鍋は浴室の水を使って洗っていた。それから、ガスボンベの扱いも習う。ガスを供給するホースをボンベに固定する金具が上手くかみ合っておらず、コンロまでガスが行っていなかったのだが、角材と針金で押さえつけ微妙な調整で固定していた。この辺の習慣は、実際に見ないとどうすれば良いのか分からないところがあったが、なるほどと観察。インポーは鍋に油とニンニク、唐辛子、煮干しをどさっと入れ炒め始めた。何か醤油のようなソースも足している。とてもワイルドなスタイル。

できた料理を運び、ビールを開けた。ちょうど、いつものPrewanganメンバー達が来たので、一緒に飲みはじめた。ほとんど毎日飲んでいるような気がするが大丈夫なのだろうか。みんなムスリムなのに、無理に僕に合わせてくれているのではないかと心配になる。皆で魚をつまんで食べる。煮干しをそのまま焼いているので、塩辛いに決まっている。「時々塩辛くなったり、時々上手く作れたりする」とインポーは笑いながら言っていた。塩辛いからと砂糖や醤油、マヨネーズなどを足して味を調整する。最終的には少し食べやすくなっていた。
メンバーの1人が「ここの生活は大丈夫か?」と聞いてきた。鶏がうるさかったりして眠れないのではないかと心配してくれていたようだ。僕は全然問題ない。楽しいしパーフェクトだと言った。実際、毎日集まってコーヒーを飲んだり、酒を飲んだりすることや、美味いしインドネシア料理、イスラム教やムスリムの生活等、僕は全部興味深く感じて生活している。
初めてのアラックと、宴会

バレーボール等でも一緒になる若者達がスタジオにやって来て、10人以上になっていた。彼らが、ペットボトルに入ったアラック4という透明の蒸留酒を持ってきてくれたようだ。アラックはトアックを蒸留して作られる。匂いは焼酎のようだったが、味は少し甘みがあって韓国のソジュのようだった。アラックを少しだけ味わったあと、その場に残っていたワインやビールをアラックの入っていたペットボトルに全て継ぎ足して混ぜてしまっていた。その後、小さいグラスを1つ出し、全員でグラスを回しながら飲み始めた。いろいろな話をしたような気がするが、あまり覚えていない。気が付いたら、いつものPrewanganメンバー達だけが残っていた。最後は、インドネシア語のアルファベットの発音や、ジャワ語について少し教えてもらった後、日本語のアルファベットの発音の仕方を教えてくれと言うから平仮名を教えた。皆の名前を平仮名で書いたりしたら、興味を持ってくれたようだった。平仮名を教えたのは初めてだったので、教えるのが難しい部分がいくつかあった。

ほとんどみんな帰ってしまった後、もう1本残ったアラックを持ってきてくれた人がいた。別の場所で飲んでいて、残ったものを持ってきてくれたようだ。
ベッドへ。たくさんの人が来て回し飲みが始まったから飲みすぎた。今日買ったワインも一日ですっかり無くなってしまった。すごく楽しく過ごしたし、仲良くなれた気がするが、毎日遅くまで飲んでいるから、付き添ってくれる人達は大変に思っているかもしれない。
ニワトリが元気よく鳴いた。
一匹が鳴くと、何匹かが一斉に鳴いた。
午前2時40分。就寝。
- この日以前にインポーが登場していた箇所は、全て後日書き直した。もともとは誰が言ったか分からない形になっていたり、リーダーと表記していた。 ↩︎
- インドマートはインドネシア国内最大のコンビニエンスストア。
https://www.indonesiasoken.com/news/convenience-stores-in-indonesia/ ↩︎ - Indomieというインスタント麺が豊富に置いてあった。Indomieは1972年に発売し50年の歴史がある、インドネシアの国民食。ハラールの基準もクリアしているそうだ。インポーがおススメしたのはIndomie mi gorengという焼きそばタイプのものだった。https://en.wikipedia.org/wiki/Indomie ↩︎
- この時飲んだものは、スティッキーライスという説明を受けたので、もち米を使ったアラックだったと思われるが、トアックというヤシ酒を蒸留することで作られるアラックもある。面白いことに、アラックはアラビア語を由来としている。アラックが発明された当初、アラビア半島にはイスラム教が伝わっていなかったことを意味している。しかし、アラック自体はイスラム文化の拡大とともに、各地に蒸留技術が伝搬して広がっている。アランビックという蒸留の為の器具が、錬金術の道具として開発されたため、それが伝搬したと思われる。酒はイスラム教の教義と矛盾するが、医療や香料としてアラックが使われてきたから矛盾しないと考えられている。
参考:Wikipedia(アラック) ↩︎