アザーンが鳴る時間は変わる
今日はモスクで礼拝の様子を見たいと思い、17時からサルーを着てアザーンが鳴るのを待った。しかし、今日は17時を過ぎてもなかなか鳴らない。そういえば、各地域で礼拝の時間が変わるし、日によって礼拝の時間が変わるとSERBUK KAYUのメンバーに聞いたことがあった。アザーンが無い国へ旅行する時など、何時に礼拝をするか分からない時はアプリ1で確認すると言っていた。
17時半頃スピーカーからアザーンが流れ始めたので出かけた。Prewanganから海の方へ向かって行くと、小さなモスクがある。僕が到着したときには、すでにモスクの中で何人かが祈りを捧げていた。さっきまで流れていたアザーンの音も消えている。礼拝の時間になると、アザーンは流れないのだ。僕はモスクの外から中を覗くように見学した。
Prewanganの建物で育ったメンバー
数分間、遠目で礼拝を見学し、スタジオへ戻った。歩いて戻っている途中、近くに住んでいるPrewanganのメンバーと出会った。Prewanganのスタジオで生まれ育った人だ。彼の両親が近くに新しい家を建てて移り住んだため、もともと住んでいた家が空いたのだ。その後できたのだが、今のPrewanganスタジオだ。彼は長男なので、将来的には家を出なければならない2。その時が来たら、彼はPrewanganスタジオに住むことになるだろうとインポーが言っていた。彼は、いつも高めの裏声で「Hi」と僕に挨拶して笑顔をくれ、とても感じが良い好青年だ。

すでにあたりは薄青くなっていて、見えづらい時間帯になっていた。遠くに座っている人がこちらを見ているが、薄暗くて誰なのか確認できない。しばらく立ち止まって確認していると、座っている影から「Hi」といつもの裏声が聞こえ、彼がこちらまで駆け寄って来た。僕はモスクを指さして行ってきたことを伝えた。すると、一緒に行くかと聞いてくる。僕はもう行ってきたと伝えたが、次の礼拝があると教えてくれ、後で一緒に行くことになった。17時くらいから19時くらいがマグリッドタイムと言われていて3、1日5回の礼拝のうち2回がこの時間に行われる4。
初めてのモスク訪問
スタジオに戻り、風呂で水を浴びていたら、次の礼拝の時間を知らせるアザーンが鳴り始めた。急いで風呂から上がると、すでにサルーを身に着けた彼が迎えに来ていた。モスクへ行くかもう一度聞かれ、僕もすぐにサルーを身に着ける。彼のバイクの後ろに乗り、さっきの小さなモスクと反対方向へ走らせた。大通りに出て、緑色の大きいモスクへ向かって行く。緑色のモスクなので、インドネシアに昔からある土着信仰5とイスラム教とのバランスを取っている宗派6のモスクなのかもしれない。
到着した時には、すでに礼拝が行われていた。僕は彼に付いて行き、見様見真似でモスクへ入るための準備をした。まず最初に、彼はトイレへ向かった。礼拝の前にトイレに行くのかなと一瞬思ったが、身体を清めるための洗い場が設置してあった。顔を洗ったり、腕を洗ったりしている途中で、おでこ、顔、耳の穴、腕、足をそれぞれ三回洗うんだと教えてくれた。隣にいた別の人は頭も洗っている。そして、身体を清めた後、濡れたままモスクの中へ入っていった。
礼拝の方法
モスクに入ると、真ん中のあたりにパテーションが置かれていて、右側に女性。左側に男性と別れて礼拝をしていた。全員がモスクの入り口を背にし、モスクの壁の方に向かって並んでいた7。僕たちも列に並び礼拝に参加する。僕の前に立っている人達がしているのを見ながら、同じ動きを真似してする。頭をおでこに着けたり、立ち上がったり、座ったり、膝に手をあて中腰になったり、腕を組んだりする動きを一定の間隔で繰り返す8。礼拝後に聞いたが、4回同じ動きを繰り返したらしい。1日5回の礼拝には、全て違う名前がつけられていて9、どの回の礼拝かによって、繰り返す動作の回数が2回になったり3回になったりするらしい10。
4回同じ動きを繰り返したあとは床に座り、コーランを聞いている時間があった。一番前でコーランをリズミカルに唱えている人が一人いて11、その人の歌声を座って聞く。コーランを覚えている人は一緒に歌っている人もいた。コーランの歌声に合わせ、同じタイミングでみんな規則正しく同じ動きをしたり、座ったまま上半身を揺らすような動きや、両手の手のひらを上に向ける動きも見られた。
10分くらいの出来事だっただろうか。礼拝が終わり、モスクから出る時、連れて来てくれた彼はすがすがしい顔をした。
- アザーンプロ(Athan Pro)というアプリ。現在地の1日の礼拝時間を教えてくれ、タイマーで教えてくれたりする。スマホのアプリ版だけでなくウェブ版もある。
参考:Athan Proウェブサイト ↩︎ - ジャワ島では一番下の子どもが、最後まで両親と暮らさなければならないという風習がある。男子女子は関係ない。一番下の子どもが結婚すれば、その配偶者が引っ越してくるため、長男長女などの上の子どもが家に残っている場合は、そのタイミングで家から出ていく風習がある。 ↩︎
- ジャワでは17時から19時くらいだが、時差によって時間はずれる。 ↩︎
- 時間が近いため、1回でまとめて礼拝が行われる場合もある。 ↩︎
- この土着信仰は、カピタヤン(Kapitayan) という旧石器時代からジャワ島にあったと考えらる自然信仰。目に見えない自然などを信仰の対象としている点で、日本のアニミズムに近いものだと考えていたが、一神教という点で違うとされる。参考:Wikipedia(Kapitayan) ↩︎
- これを、ケジャウエン(Kejawèn)と言う。しかしケジャウェンは、イスラム教伝来前からジャワに存在していた。昔ジャワにあったマジャパヒト王国はヒンドゥー教国家だったが、このように、ジャワ島では、支配する国王によって支持する宗教が変わって来た歴史がある。そのため、イスラム教伝来時には、土着信仰であったカピタヤンと、仏教やヒンドゥー教が融合したケジャウェンがあったと考えられている。現在のジャワ島のイスラム教は、イスラム教に融合したカピタヤン、カピタヤン化したイスラム教で、宗教的・哲学的ジャワの伝統である、ケジャウェンとなっている。そのため、現在でも、ヒンドゥー教や仏教的な要素が、儀式や生活の中に見え隠れすることがある。参考:Wikipedia(Kejawèn) ↩︎
- メッカの方向を向いている。参考:Wikipedia(キブラ) ↩︎
- 礼拝動作には、腕を組む、両手を膝にあててお辞儀する、頭を地面につける、正座のように座るの4つがあり、この礼拝動作を組み合わせた単位をラクアトと呼ぶ。参考:日本アマハディアムスリム協会 ↩︎
- 各礼拝の名称と時間帯
ファジャル(Fajar)・・・・・明けがたから日の出まで
ゾフゥル(Zohar)・・・・・正午から昼すぎまで
アッサル(Asar)・・・・・昼すぎから日没まで
マグリブ(Maghrib)・・・・・日没直後
イシャ(Isha)・・・・・就職前
参考:日本アマハディアムスリム協会 ↩︎ - 礼拝動作(ラクアト)の回数は、1日5回の何回目の礼拝かにより変わるだけでなく、義務の礼拝(ファラド)と、任意の礼拝(スンナ)一日の最後に行う(ウェトル)の組み合わせ等で回数が変わる。また、旅先で礼拝できない場合や、まとめて礼拝をする場合など、特殊ルールがいくつも存在するようだ。
以下のリンク先にある表が、分かりにくいため見方の例を示す。
イシャ(夜の礼拝)であれば、
ファラド:4ラクアト
スンナ(後):2ラクアト
ウェトル:3ラクアト
の計9回行うという意味になる。
参考:日本アマハディアムスリム協会 ↩︎ - ウラマ―と呼ばれる、神学者や指導的立場を意味する人だったと思われる。ウラマーは神父やお坊さんとは違い、聖職者ではない。イスラム教には聖職者がいないため、神との仲介者となる役職などもない。参考:Wikipedia(ウラマー) ↩︎