最初の気持ち
あと半分くらいで滞在期間が終わる。いくつか作品プランを考えなければならないが、まだできていない。ここの景色や生活、毎日の掃除や洗濯も慣れてきた。最初は路地を見るだけで、なんだか凄い景色だと思っていたが、路地を見ても何も思わなくなっていることに気が付いた。それで、指でフレームを作って覗いてみたら、初日に見た真新しい景色に見えてきた。

ソボントロ村には、僕が知らなかった生活の仕方がたくさんあり、気がつくことが山程ある。だから、作品制作のテーマには困らないが、たくさんあり過ぎてどのように触れてよいのか分からない。今回の滞在は、来年のための準備期間として設定されているが、次に来れるのがいつになるのか、また、どのくらい滞在できるのか分かっていない。そのため、今のうちに実験したり、制作したほうが良いと思っている。まだ、何も試案を実験できていないので、少し焦ってきている。
僕は、場所やテーマに沿って、違う方法で作品をつくることが多い。作品になりそうなたくさん転がっているから、思いつくことを片っ端から試してみるという方法もあるが、時間には限りがあるし、選択肢が多くて困り始めているのだ。
4つのプランを
午後。プランを考える時間があったから、簡単なメモを残した。何の意味があるのか聞かれると困るような、途中段階のエスキースを4つ描いた。インドネシア語では複数系を表すときに名詞を二回繰り返したり、形容詞を二回繰り返すことで意味が変わるものがあると聞いた。もしかして「プラン プラン」だと、プランが複数あることを表現しているのかなと想像した1。
夜。インポーがスタジオに来たとき、少しだけ4つのプランを聞いてもらった。彼は、毎日のように新しい人を紹介してくれたり、新しい情報をくれたり、僕のアイデアについて聞いてくれたり、意見をくれたりしている。それに、彼の回りではほとんど毎日のように何か起こっている。僕には、毎日パーティやミーティングをしているように見えるが、彼にとっては普通のことのようだ。ここに住んでいる人達は皆彼と同じような生活をしているのだろうか。毎日創造的な会話が繰り広げられているので、Prewanganは制作するには素晴らしい環境だと思う。
インポーとプランの話をしている時、狂ったように豪雨が降った。雨粒が屋根の隙間から入ってくる。ここの建物は、隙間が多いので、夜になると部屋の明かりが天井や壁から漏れていたりするが、そういう家は、雨季になるとあちこち雨漏りしているに違いない。インポーは、このプランがいいんじゃないかと1つ選んでくれた。一番実現が難しそうなプランだった。
プラン プランなプラン
僕はアイデアを出すのは早いのだが、とりかかるのも、仕上がるのもとても遅い。後から知ったが、「プラン プラン」はインドネシア語で「ゆっくり」という意味があるようだ。
僕には2018年から約束している作品があるのだが、まだできていない。小説を書いている友人で、彼女が書いた小説を元にしてコラボレーション作品を作りたいと提案したのだが、まだ取り組めていないのだ。実際には、映像をランダムで見せるプログラムを用いる作品などで、原型になりそうな仕組みは制作してきたのだが、ずっと心残りになっている。制作に移る度に、そのことが気がかりになっているが、すでに7、8年経過してしまった。これでは、約束を破ったと思われていても仕方がない。だけど、僕のプランはいつも「プラン プラン」なので、もう少し時間がかかりそうだ。
初めてのナシゴレン
僕の4つのプランの中から、やるならそれがベターだ。という意見をもらった。さてどうしたものか。最後のビールを飲みほした頃。Prewanganのメンバーが仕事を終えてスタジオに来た。凄く疲れた表情をしている。いつの間にか雨もやんでいたし、腹が減っていると言うから、バイクの後ろに乗って、大きな水たまりを通りながら、3人でナシゴレンを食べに行った。ナシゴレンは日本でも聞いたことがある名前だったが、インドネシア料理だと今日初めて知った。ナシは米、ゴレンは炒めるという意味らしい。チャーハンだ。



- プランプランと同じ音のインドネシア語pelan-pelanは、ゆっくりとという意味らしい。pelanは遅いという意味。英語のplan(計画)はインドネシア語ではrencanaで、全く音が違った。 ↩︎