Day17.「魚パーティ」

 田舎の魚市場で買い物

 日本的な食事を振る舞おうと思い、魚を買いに連れていってもらった。バイクの後ろに乗ってしばらく行ったところに市場があり、野菜や魚、調味料など様々な食品を売っている。魚市場の区画はけっこう大きく、たくさんの魚が山積みになっていた。刺身をつくりたいと思っているので、なるべく新鮮なものを手に入れたい。すでに新鮮ではないように見えるものもたくさんある。見たことがない形をした魚もたくさんいる。鯵と鯖のような見た目の魚を2種類選んで購入した。鯵は刺身にして、鯖は煮物にするつもりだ。調味料等がスタジオに無いので、醤油と生姜、油も市場で購入。

魚市場の入り口。多くの人でにぎわっている。
いろんな種類の魚がごちゃ混ぜに床に山積みになっている
見たことがない形の魚がいる。
手前にいるのはマンボウかな?
手前のバケツは仕分けが終っている魚。右の魚はナマズのようにひげが生えている。
 初めて食べた生魚は気持ちが悪かったらしい

 スタジオに戻ると、昼間から何人かで酒を飲んでいた。せっかくなので、鯵を刺身にして出してやろうと思い、台所で一匹だけ捌いた。生姜を乗せて醤油をかけて味見。魚も新鮮で、ちゃんと刺身になっている。これなら大丈夫だと思って刺身を持っていくと、みんな嫌がった。一人だけ食べてくれたが、最初の一人は気持ち悪がって窓から外に吐き出した。インポーが刺身をリクエストしていたので、あまり深く考えていなかったが、生魚を食べる習慣が無いことに今になって気が付く。漁師町だし、海はすぐそこにあるのに、生で魚を食べる習慣が無いらしい。本当は鯵を全て刺身にする予定だったが、メニューを変更しなければならないと理解する。

 慣れない道具や調味料で調理する

 アザーンが鳴り皆が帰っていた。僕は魚の準備をする。台所にはシンクが無いため、外の水場で作業をしたが、大量のハエが何十匹も臭いを嗅ぎつけてやってくるし、目の前の道には鶏が何匹もやってきた。小さな果物ナイフのような包丁しかなく、それで大量の魚の鱗を剥がし、全て三枚おろしにした。鯵は20匹近く、大きな鯖は5匹。調理用の大きな包丁がないため、けっこうな重労働だった。捌くだけで2時間近くかかったと思う。

 鯵は刺身にしても嫌がられると分かったので、代わりに天ぷらにすることにした。サンジに卵と小麦粉を少し持ってきてもらう。鯖は醤油煮のようなものになった。中華鍋のようなフライパンが1つあり、それを使って天ぷらと煮物をした。天つゆも、醤油と砂糖と魚を粉末にしたものを加えて無理やり作ってみた。

左から、天つゆ、アジの天ぷら、サバの煮物。
不味い食事を披露するパーティ

 たくさん人が集まってきて、スタジオの庭で食事になった。インポーがたくさん人を呼んでくれていたようだ。日本食が食べれると思って集まってきている。

20人近く集まってきていた。

 庭にあるテーブルに食事を運び、最初に一口食べてみた。正直全然うまくできていない!これは、やばい。普段は1、2匹でつくるので、こんなに大量につくったことが無く、調味料の加減が分からなかった。全ての食べ物の味が薄い。まったく思った味になっていない。こんなに人が集まってしまったのに、不味いものを披露することになるとは、気持ち的にかなり辛い。

 そして、おそらく食べる側も辛い。不味いとも言えないし、大量にある。インポーは、インドネシアにも似た料理があると言ってフォローしてくれていたが、正直言って、今まで食べてきたインドネシア料理は全て絶品で、こんなに不味いものは無い。

 アーティスト・イン・レジデンスなどで、お世話になった人達に食事を振る舞うことは、とても良いコミュニケーションになり得るが、調理を失敗すると心が折れるし悲惨なので、使い慣れた調味料を自国から持ってきておくことと、大人数分を一度につくる練習はしておくべきだ。みんな気を付けよう。

外国で困った経験

 インボーが東京で展覧会があった時に、自転車で移動していたらしいのだが、自転車をどこに置いて良いか分からず、車の駐車場に置いたことがあったらしい。それを注意されたことがあると言っていた。確かに、東京だと自転車を適当に置いたりできない。駐輪場に置かなければ違反になったり、持っていかれたりする場合もある。彼も、そのことは知っていたようだが、駐輪場を探しても無かったために、車の駐車場に止めた。自転車も車の一種なのだから、全然問題が無いようにも思うが、ダメだったそうだ。そのことを笑いながら話てくれた。

 それで僕も、インドネシアで困ったことを話した。滞在3日目のトイレの話だ。その時は、トイレに行った後にタバコを吸うというアドバイスをもらうのみで、結局今まで本当のやり方は分かっていなかったのだが、ようやく、うんこの仕方についての疑問が解決した。具体的にジェスチャーを交えながら教えてくれたので、おかしくて仕方がなかった。料理は失敗してしまったが、最後は凄く楽しい夜になった。

トアック

 気が付いたら、トアックがテーブルに置かれていた。前にも飲んだことがあるが、濁り酒のような感じ。トアックは、パームの樹液を採取し、発行させることでできるアルコールだ。特別なことをしなくても、採取して置いておくと発酵してトアックになる。以前、発酵する前のものを氷で冷やしたジュースを飲んだが、それはこんなに白濁しておらず、もう少し透明だった。梅ジュースサワーのような爽やかな味だったが、トアックになると、かなり独特の風味でパンチが効きすぎているため、最初は腐ったものを飲んでいるかのように感じた。このトアックを蒸留すれば、焼酎やウォッカのような味わいのアラックになる。