Day8-1.「網縄漁師の仕事場とヤシ酒とインスタントヌードル」

 朝から手洗いで洗濯。最近、雨季が近づいているからかよく雨が降る。せっかく洗濯して干していても濡れてしまうから、スタジオの土間に干す場所を作ってそこに干した。洗濯など家事をすると、この生活にもずいぶん慣れてきたような気になってくる。洗濯物を干した場所には、来た日からずっと赤いタオルがぶら下がっていて少し気になっているが、そんなことは気にしていても仕方がない。気にしていると、全てがいろいろと気になってくるため、この環境を丸ごと受け入れる。話はそこからだ。

初めてのヤシ酒「トアック」

 昼過ぎにインポーから連絡があり、漁師のコレクティブに行くことになった。いつもの海辺のカフェからはいつも船が見えているのだが、そこのコレクティブに行くと言う。

 僕たちが到着すると、笑顔を向けてくれて、奥の方からいかにも怪しい白いペットボトルを持ってきてくれた。ペットボトルにはハエがたくさんたかっていて、ヤバそうな感じがする。漁師の人がコップに白い液体を注いでくれて、「精力がつくぞ!」みたいなポーズをして笑った。だいぶ怪しく見えたので、インポーがこの飲み物の説明をしてくれた。Prewanganプレワンアンに到着した日に、ジャワカレーを食べたのだが、その時に飲んだラグンという飲み物と同じだと言っていた。僕は残っていたペットボトルに入ったラグンをカバンに入れて持って帰っていたのだが、発酵して爆発しカバンの中がびしょ濡れになっていた。あの時のあれがこれだと、インポーが教えてくれた。ラグンはヤシの実から取れる液体で、ジュースのように飲めるのだが、数時間で発酵が始まってしまうため保存が効かない。発酵したら、自然にトアックというお酒になる。この白い液体がそのトアック1らしい。

白いペットボトルにトアックが入っている。トアックは白濁したお酒だ。右上に見えるビニール袋の液体はコーヒーの宅配サービスで届いたもの。この村では、テイクアウトやデリバリーで飲み物を頼むと、ビニール袋に直接入れて提供されるのが一般的らしい。

 トアックはかなりパンチが効いていて、どう言って良いか分からない。今まで飲んだことがない味で、生卵を呑み込むような気持ちで飲んだが、お代わりはしっかり頂いた。トアックはお酒だけど、ムスリムは飲んでいいのかとインポーに通訳してもらって漁師に聞いたら、トアックはお酒ではないと笑いながら言っていた。

 漁師の人達はみんな仕掛けを制作中で、網をつくっていた。大きな筒状の網を仕掛け、船を走らせながら魚を捉え数名で網を引き上げる方法で漁をしているそうだ。網は購入したものではなく、一から制作されている。太いロープも購入したものではなく作られているそうだ。漁師の人達が代々受け継いできた知恵が詰まった作業風景だった。

 その後、海辺のカフェからいつも見えている船を案内してくれた。船は木製で、保護のために油性のペンキを船体に塗っている。剥がれたペンキを補修している作業員がいた。船内にはエンジンや、網を引き揚げる機械が乗っている。屋根になっている部分にはスピーカーが乗せられていたので、漁をしながら音楽を聴くのだろうか。カラフルな船体がとてもカッコよい。旗に書いてある文字や、船体に書かれているアラビア文字について質問してみた。旗に書いてあるSRIKANDIスリカンディはこの船の名前で女性の神様だとインポーが説明してくれた。漁師の彼からは、男より女の船に乗りたいからだという説明があったが、後から調べてみると性転換をして男になったヒンドゥー教の神様のようだった2。船体に書かれているアラビア文字は、コーランなどから取って来た言葉だろうとインポーは言っていたが、読めないから意味は分からないと言っていた3

油性ペンキで船を補修中の漁師
後から調べたところ、アラビア文字は「アッラーの他に神はなく、ムハンマドはアッラーの使徒である。」と書かれている。船の名前はヒンドゥー教由来の神様なので、宗教が融合していることがよく表れている。
カラフルなスリカンディ号
みんな自分の国のインスタントヌードルが一番だと思っている

船を見学した後は、いつものカフェに移動し、インポーとくつろいだ。もう2時頃だったが、僕は昼ごはんを食べていなかったので、カフェではインスタントヌードルも食べることができるから食べたらどうだと言われた。インドネシアのインスタントヌードルは世界一美味いから、絶対に試すべきだとインポーが言うので食べてみた。Netflixでペク・ジョンウォン4が言っていたが、韓国人も世界で一番韓国のインスタントヌードルが美味いと思っているらしい。たぶん日本人も日本のインスタントヌードルが一番美味いと思っているに違いない。

 目玉焼きと唐辛子を少し追加したインスタントヌードルだった。見た目はそんなに良いものではないが、味は確かに良い。結局どこの国のインスタントヌードルが美味いのか、僕にはどれも甲乙つけがたいが、細麺のクオリティは日本。太麺のクオリティは韓国。味付けはインドネシア。ということにしておく。

食後の運動

 カフェの後、4時頃からバレーボールをすると聞いていたので行ってみた。今日は、若者だけでなく大人も参加している。彼は魚の干物工場を経営している社長さんだった。僕よりも年上の人だが、セッターをしていて、誰よりも楽しんでいる様子だった。バレーボールの腕前も、僕なんかより随分上手だ。大人と子どもが一緒になって同じレベルで遊んでいる姿は日本ではあまり見る機会がないが、ここではこういう場面を時々見かける。何度もミスをしている子が、その人に激しく𠮟られて交代させられていたので驚いたが、こういうことも含めて子ども達にとっては、とても良いことだろうと思った。


  1. トアック(Tuak)は、インドネシア、マレーシアで飲まれている伝統的な酒。もち米を利用してつくられるトアックが一般的で飲めるようになるまで約2週間かかる。この村ではヤシ酒が飲まれているが、ヤシ酒の場合は数日ででき、長時間放置すると酢になる。https://ms.wikipedia.org/wiki/Tuak ↩︎
  2. シカンディン(インドネシア語ではSrikandi)は、元々女性として生まれシカンディという名前だった。ヒンドゥー教の神様。現在のジャワはイスラム教徒が大多数だが、昔はヒンドゥ教が多かった時代があるため、その時の文化が今も多く残っており、イスラム教と混ざっている部分があることがこの船の名前からも分かる。ジャワやバリで有名な、影絵芝居のワヤン・クリも、ヒンドゥー教の叙事詩を元にしている。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3 ↩︎
  3. ChatGPTで画像を読ませたところ、لا إله إلا الله محمد رسول اللهと書かれているそうだ。ChatGPTも通常のOCR処理という技術では読むことができず、目視したと言っていたので謎だが、確かに僕が目視すると同じ形状をした文字を見つけることができた。このアラビア語の意味は、「アッラーの他に神はなく、ムハンマドはアッラーの使徒である。」だそうだ。これはイスラム教の信仰告白(シャハーダ)であり、ムスリムにとって最も重要な言葉の一つとのこと。 ↩︎
  4. 「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」エピソード2https://wwww.netflix.com/watch/81405578 ↩︎